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書評:小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て

 現在仕事の一環で、子育てについてのオンラインセミナーの準備をしています。ウェルビーイング心理教育の要素を含めてセミナーの構成を考えてはいますが、子育てや家族についての専門家ではありません。

ということでセミナーの準備のために、子育てについての本をいろいろと読んでいます。

 

 その中の1つが、アマゾンでレビュー数が多く、評価も高かった「小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て」。タイトルにあるように小児科医の高橋孝雄先生によって書かれた本です。それではいつものように書評です。

      

 まず本の中では遺伝子の働きがいたるところに登場します。遺伝子というとウェルビーイング心理教育でいうところの、自分では変えることのできない50%の部分。「テロメアエフェクト」のように私達の行動や習慣は、実は遺伝子にも影響があるようですが、遺伝子そのものは自分で変えることはできません。なのでウェルビーイング心理教育では、遺伝子以外の50%(自発的要因や環境要因)に働きかけて、より幸せになりましょうというのが考え方です。

 

 遺伝子以外の50%の要素=幸せになる要素 という考える癖ができてしまって

 遺伝子の50%の要素 = 幸せとはあまり関係ない部分、というイメージが自分の中に作られていたように思います。

 

 この本の中では、遺伝子の力は実は圧倒的に肯定的で、人を幸せにする力がある、というメッセージに溢れており、はっとさせられました。

 

 例えば、ウェルビーイングでも重要な要素に自己肯定感があります。高橋先生も自己肯定感を子どもをしあわせに導く3つの力のひとつ(その他は共感力と意思決定力)と位置づけておられます。そしてこのように書いてありました。

 

 「はじめから自己肯定感がない子どもはいないのです。自己肯定感は、遺伝子が責任をもってすべての子どもたちにあたえた、天性のちからです」(P142)

 

 ということで遺伝子は基本的には幸せの味方なのだと気付きました。これが一つめの気付きでした。

 

 それではその他の気付きをもう2点ほど。

 

 2番めは「最終決定権は子どもがもたないと、子どもとの話し合いは成立しない」(P1161)という意思決定力について。これは確かにそうですよね。子どもと話し合うことの大切さは理解しているつもりで、我が家でも日常的に行っています。でも話し合いの中で、決定権がないと子どもが感じたら、真剣になって話し合いには参加しないでしょう。

 

 親は立場上強いので、どうしても決定権を握ってしまいがちです。我が家でも子どもたちが参加して形式的にはいろいろ話し合うけど、結局親の意見で決めていたということがままあることに気付きました。決定権を子どもにゆだねるとういことは、親にとって勇気が必要なことですが、とても大切なことだということが分かりました。

 

 3番目の気付きは、あとがきに書いてあったこの言葉。「子どもに共感できることが文化の高さ」(P194)

 

 都内通勤をしていると、都内での子育ての環境はこれとは真反対だと感じることがあります。例えば、通勤電車に子ども連れが乗ってきた時。周りの通勤の人たちは、この時間に乗らないでよ、という雰囲気になってしまいそうです。そのような環境は、子どもに共感できる文化ではないですよね。

 

 これはかなり広いテーマですが、日本は家族や子育てを大切にしないという文化を育ててきてしまったというのが持論です。その結果が、急激な人口減少社会であり、これから日本が直面する厳しい現実なのではないでしょうか。文化レベルは時代とともに上昇するのが当たり前のように思えますが、必ずしもそうとは言えないのかなと思わせる言葉でした。

 

 以上が読みながら特に気付きのあった3点です。とても読みやすい文章で書かれており、されに著者の豊富な経験から裏打ちさせれてる言葉には説得力があります。また子育てに一番大切なのは、自己肯定感、意思決定力、共感力と、分かりやすく3つにまとめられているのもとてもよいと思いました。

 

 そして我が家が直面している課題にも応用できる部分がありました。それは子どもの習いごとについてです。

 

 10歳になる息子は週に1回近所のピアノ教室でピアノの練習をしています。小学生にあがってから続けています。その息子がそのピアノ教室をやめたいと最近言ってきたのです。

 

 親としてのな反応は、あとで役に立つからやり続けて欲しい、今やめるともったいない、始めたことはやり続けて欲しい、などというもの。ごく当たり前の反応ではないでしょうか。ただしウェルビーイングの観点から考えた時には無理強いはすべきでないとすぐに思いましたが、それでもどのようにすればよいか正直は迷ってしまいました。そんな状況の中ちょうど以下の部分を読みました。

 

「大人が誘導したのが、習い事を始めるきっかけだったりしませんか」(P97) 

 

「自分が挫折したことを、次は子どもに挑戦させてようとするのはナンセンスです」

 

 まさにその通りなのでした。ピアノをやめさせないことは、親の意思を強要していることになるとはっきり分かりました。そしてこんな文もありました。

 

「とことん追い詰めたり、強要しないこと。強要をして挫折と自己肯定感を下げることをする必要はない」(P146)なるほど、強要をすることは子供の自己肯定感を下げる原因にもなってしまようですね。

 

 ということ、これらの言葉を参考にして夫婦感で少し方向性をを決めてから、本人と話し合ってみることにしました。

 

 そして実際に話し合うと、息子としてはピアノはあまりおもしろくなく興味がないとのこと。この話し合いの最中は、怒りなどの感情はまったく出さずに、「今続けておくと将来は役に立つと思うけどなぁ~」とこちらの意見だけは伝えました。まあでもそのような意見はあまり効果がないわけで、息子の考えを尊重してやめるということになりました。

ただしすぐにやめると先生にも申し訳ないので、先生にきちんと説明をして12月末で終わることにしようということになりました。

 

「途中でやめるか続けるか迷ったときも、最終的には自分で決めさせること」(P160)

ということをまさに実践する機会でした。

 

 気づいた点の2番めで書きましたが、子どもに最終的な決定権をゆだねることで、親子の間に議論と話し合いが成立するのでしょう。この話し合いの結果から、息子は自分の意思が尊重されて「意思決定力」が増し、自分の意見は大切だという「自己肯定感」も

増したのであれば、それはそれで息子の成長にとってよかったのかなと親としても楽な気持ちになりました。

 

 子育てはどの家庭でも勉強と失敗の連続ですが、子育てについての良書を読み、またタイムリーに応用することができました。ということで子育て世代には大変お薦めの本でした。